2025年8月、Amazonは長年社内で進めてきた次世代プロジェクト「Starfish AI」（プロジェクト名：Project Starfish）を正式にローンチしました。このプロジェクトは、生成AI（Generative AI）と大規模データ統合技術を駆使し、世界中の商品情報を一元化し、「究極の製品データベース」を構築するという壮大な構想を持っています。
Amazonは、このStarfish AIによって2025年内だけで約75億ドル（約1兆円）の販売増を見込んでおり、EC業界の構造を大きく変える可能性があります。
本記事では、その仕組みやセラーへのメリット、そして課題まで徹底解説します。
1. Starfish AIとは何か？
Starfish AIは、Amazonが開発したAIベースの自動商品リスティング生成システムです。外部ブランドサイトや製品画像、スペックシート、カタログデータなど、20万以上の外部情報源から情報をクロール・スクレイピングし、それらを統合・精査して高品質な商品ページを自動生成します。
従来の出品作業では、セラーやメーカーが以下を手作業で用意する必要がありました。
- 商品タイトル
- 商品説明文
- 箇条書き（Bullet Points）
- 商品画像や動画
- A+コンテンツ素材
- バックエンドキーワード
- 広告用クリエイティブ
Starfish AIでは、こうした要素をURLや簡単な説明文を入力するだけで自動生成可能です。しかも生成される内容は、SEOや購買率向上を意識した構成となっており、セラーは微調整するだけで即出品が可能になります。
2. 「Buy for Me」機能との統合
AmazonはStarfish AIを単なるリスティング自動化ツールでは終わらせません。同時に進行中の「Buy for Me」機能（他社サイトの商品をAmazonアプリ内から購入できる仕組み）と連動させ、外部商品のデータも自動的にAmazon内の形式へ変換します。
これにより、Amazonは他社サイトの商品データまでも自社プラットフォームのフォーマットに取り込み、ユーザーがシームレスに買い物できる環境を整えます。結果的に、Amazonはオンラインショッピングの“情報ハブ”としての地位をさらに強化することになります。
3. セラーにとってのメリット
3ｰ1. 出品作業の圧倒的効率化
これまで数時間〜数日かかっていたリスティング作業が、Starfish AIなら数分で完了します。特に商品数が多いセラーやOEM製品を多数展開している企業にとっては、人的コストの大幅削減につながります。
3-2. リスティング品質とSEOの向上
Starfish AIは、外部情報源から最適なキーワードや商品特性を抽出して組み込みます。これにより、検索順位やCTR（クリック率）の改善が期待でき、結果的にCVR（購入率）や売上向上につながります。
3-3. 広告素材も同時生成
広告用の画像やテキストも同時に生成できるため、DSPやスポンサー広告のクリエイティブ制作もスムーズに行えます。
4. 課題と懸念点
4-1. データ利用・著作権の問題
外部サイトからの情報収集・再利用は、ブランドやメーカーの意図に反する場合があります。特に著作権や商標利用に関しては、法的なグレーゾーンが残ります。
4-2. 品質管理の難しさ
AIが生成する文章や画像は、常に正確であるとは限りません。事実誤認やブランドトーンの崩れなど、セラー側による最終チェックは必須です。
4-3. ブランドコントロールの低下
AmazonのAI生成に依存すると、独自のブランド表現が希薄になる可能性があります。特に高価格帯商品やプレミアムブランドでは、この点に注意が必要です。
5. EC業界全体への影響
Starfish AIの普及は、単にAmazon内の効率化にとどまりません。
- 中小セラーの参入障壁が大幅に低下
商品データ作成のスキルや人員がなくても、短時間で出品可能になります。 - 大手ブランドは情報管理が難化
外部データが自動取得されるため、公式ページの内容がそのままAmazonに取り込まれるケースが増え、ブランド側の意図と異なる形で情報が表示されるリスクがあります。 - Amazonのデータ支配力が強化
膨大な製品情報を一元管理することで、他のECプラットフォームとの差別化がさらに進みます。
まとめ
2025年8月に正式ローンチされたAmazonのStarfish AIは、生成AIと大規模データ統合によって商品リスティング作成の概念を根底から変えるプロジェクトです。セラーにとっては出品スピードの飛躍的向上、広告展開の効率化、SEO効果の向上という恩恵がありますが、一方で著作権やブランドコントロールといった課題も存在します。
今後のAmazon販売戦略では、AIの効率性を最大限活かしつつ、人の目による最終チェックとブランド戦略の維持が不可欠になるでしょう。
