Amazonには、世界中のメーカーやブランドと協力し、顧客に魅力的な商品と価格を提供するための専門組織があります。それがGlobal Vendor Management(GVM)チームです。GVMは、Amazonの直販モデル(ベンダーモデル/1P)において、戦略的に重要なベンダーとのパートナーシップを管理・成長させる中核的存在であり、単なるバイヤー業務を超えた包括的な事業推進を担います。
GVMチームの役割とミッション
GVMのミッションはシンプルでありながら奥深いものです。「戦略的ベンダーとの協働を通じて、顧客体験を最大化し、Amazon全体の成長と利益を推進すること」この目的を達成するため、GVMは以下の3つの視点を常に意識しています。
- 顧客視点 – 顧客が求める品揃えと価格を常に提供し続ける
- ベンダー視点 – パートナー企業の収益拡大とブランド価値向上を支援
- Amazon視点 – Amazon全体の収益性、競争力、グローバル市場での地位を強化
主な業務領域
1. 商品調達と価格交渉
- ベンダーとの仕入れ契約締結、条件交渉
- 競争力ある価格を実現するための原価改善提案
- 新規ブランド・商品カテゴリーの発掘と導入
2. 在庫・需給管理(グローバルサプライチェーン)
- 精緻な需要予測に基づく発注計画
- 欠品リスクと過剰在庫リスクのバランス最適化
- リードタイム短縮や輸送効率化など、サプライチェーン全体の改善
- 季節差を活かした在庫移動の最適化
例えば、北半球の冬物衣料がシーズン終了後に余った場合、GVMはその在庫を北半球が夏を迎えるタイミングで南半球の国へ輸送し、南半球が冬に入った時点で販売を開始します。こうした在庫の再配置により、廃棄や値下げ処分を減らし、販売機会を最大化します。これはGVMが得意とするグローバルサプライチェーン戦略の一例であり、単なる在庫管理ではなく、世界規模での需要と供給を動的にマッチングさせる高度なオペレーションです。
3. 販促戦略の立案・実行
- 年間販促カレンダーの策定と実行
- 共同マーケティング施策(共同広告、タイムセール、限定企画)
- ブランド価値を高めるキャンペーンデザイン
4. 収益分析と戦略調整
- 売上・利益・在庫回転率などKPIのモニタリング
- データドリブンによる販促・価格戦略の見直し
- カテゴリー別・地域別のパフォーマンス比較と改善提案
GVMのグローバル戦略と地域差異
GVMは世界規模での統合戦略を構築し、それを各地域の特性に合わせてローカライズします。
グローバル戦略の核
- 統一されたベンダー契約:複数国を跨いだ包括契約で条件を統一し、購買力を最大化
- データの一元管理:世界中の販売・在庫・需要データを集約し、在庫移動や需要対応を迅速化
- ベストプラクティス共有:特定地域の成功施策を素早く他地域に展開
日本市場の位置づけ
- 高品質ブランドの供給源:海外需要の高い日本製品をグローバル展開
- 商習慣適応:日本特有の取引慣行を理解し、グローバル戦略に接続
- 二重最適化:国内市場の維持と海外市場拡大の両立
日本企業が直面する課題
日本企業がGVMチームと直接交渉できないケースは少なくありません。その背景には以下があります。
- 英語力の不足 – グローバル交渉は英語が前提だが、商談レベルで対応できる人材が限られる
- 決裁権の不足 – 交渉に参加する担当者が条件決裁権を持たず、商談が長期化
- Amazon知識の不足 – 責任者がAmazonのビジネス構造やアルゴリズムに詳しくない
- 地域別ビジネス文化 – 日本企業は地域単位での独立運営を重視し、グローバル統一方針とのすり合わせが難しい
GVMが提供する価値
- 顧客:豊富な品揃えと安定供給
- ベンダー:国際販売網と利益率改善
- Amazon:利益性とブランド競争力の強化
まとめ
GVMチームはAmazonのベンダーモデルを牽引するグローバル戦略実行部隊です。在庫再配置などのグローバルサプライチェーン戦略を駆使し、需要と供給を世界規模で最適化します。日本企業にとっては、GVMとの連携を最大化するために、語学力、決裁権、Amazon知識、組織文化といった課題を乗り越える必要があります。