Amazonセラー買収モデルはバブル?

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この1年、Amazonマーケットプレイスのエコシステムに注目していた人なら、間違いなくAmazonアグリゲーターの存在を耳にしたことはあるでしょう。現在、80社以上の企業が70億ドル以上(8,000億円以上)を調達し、個々のAmazonマーケットプレイス事業を買収しています。このような動きの中で、劇的な変化が起こるのは当然のことで、血を流す企業もあれば、大成功を収める企業も出てくるでしょう。

当社がサポートをさせていただいているBerlin Brands Groupは、正にこのビジネスの中心的存在になっておりますが、今回は、そのビジネスに関しての、youtubeで活躍しているアダム・ヘイストさんによる、アマゾンセラー買収ビジネス(アマゾンセラー アグリゲーター)についての考察を、許可をいただき翻訳させていただきました。日本ではまだ活動が始まったばかりのアマゾンセラー買収ビジネス、今後どのようになっていくのでしょうか。

ここでは、Amazonのアグリゲーション分野における動向予測トップ5を紹介します。

ところで、あなたがもしAmazonのアグリゲーターならば、耳を塞いでおいた方が良いトピックもありますので、ご承知おきください。それでは、早速始めましょう。

Adam Heist(アダム・ヘイスト)のチャンネルへ、ようこそ。

Amazonアグリゲーターとは、個々のAmazonビジネスを買収し、まとめて巨大な企業にして莫大な利益を獲得しようとしている企業のことです。この分野では、昨年だけで80社以上のアグリゲーターが参入し、70億ドル(8,000億円以上)の資金を調達するなど、さまざまな動きがありました。しかし、関係者全員にとって良いニュースばかりではありません。私が今回のビデオを作成したきっかけとなったのは、CNBCが業界屈指の展示会Prosper Showにおいて、Amazonアグリゲーション業界についてのビデオを発表したからです。このように、毎週新しいヘッドラインやニュース記事が掲載され、この業界での事象について深堀されている程、注目をあびています。

実は、この分野と今日の状況を真に理解するためには、2002年にさかのぼる必要があります。この年、Amazonは、自分たちのプラットフォーム上で商品数を増やすにはどうしたらよいかを考えていました。結果、お客様のニーズに合ったすべての商品を倉庫にある在庫から提供することは非常に難しい、という結論に至りました。これが、マーケットプレイスをサードパーティと呼ばれるセラーに開放することになった始まりです。こうしてFBAが誕生し、基本的に誰もがAmazonセラーになることができるようになりました。現在、全世界のあらゆるチャネルで、23兆ドル規模の消費財市場が形成されています。そのうちの4兆ドルは、Eコマースが占めているのです。しかも、昨年に比べて約60%の増加となっています。過去10年間で、毎年2桁の成長を続けているこの4兆ドルのグローバルEコマース市場のうち、5,000億ドルがAmazonのマーケットプレイスで発生しています。

ただし、驚くべきことに、この5,000億ドルの大部分は、Amazon自身がセラーとして得た金額ではないということです。実際、Amazon収益の60%以上は、私やあなた、また多くのチャンネルでビッグブランドを保有するサードパーティセラーによるものです。この収益は、10万人以上のセラーが少なくとも年間100万ドル以上を稼いで発生しています。このように、民主化された近代商取引の歴史上、最大のビジネスチャンスがやってきているのです。アグリゲーターは、これら10万人以上のセラーを狙って、買収、統合を目指しています。さらに、金融や資本、大規模ビジネスの運営や拡張に関する専門知識を駆使して、ブランドを成長させ、ビジネス価値を高めていくのです。では、今後どのようなことが起こり得るのでしょうか?

私の動向予測の1つ目を紹介します。

もし、あなたがAmazonアグリゲーターであれば、この最初の予測は受け入れたくないかもしれません。今後2年間で、多くのアグリゲーターが破綻すると予測しているためです。現在、あまりにも多くの資本が投入され、多くのプレーヤーが参入してきたため、少なくとも25%のアグリゲーターは、ビジネスを理解し運営することができるようになる前に、必要な追加資本不足に直面するでしょう。そこで、Amazonアグリゲーターが長期的に成功するために必要な数字を見ていきたいと思います。

まず重要なのは、買収するビジネスのEBITDAは、一般的に個人事業主や中小企業の場合、18~25%程度であることを理解することです。もちろん、中にはもう少し低いものも、もっと高いものもあるでしょうが、この業界のほとんどの企業の収益は、広告費、経費、ソフトウェアサービスなどのすべてを差し引いた後、18~25%程度になるのが一般的です。

もう一つの重要な点は、株式または負債を使って資金を調達している、ということです。株式とは、返済不要の資金ですが、ビジネスと資本政策の一部を手放すことになります。一方、負債とは、調達資金を返済する際に金利も支払わなければならないことを意味します。債務返済額は、契約内容やアグリゲーターのリスクなどによって異なりますが、ほとんどの場合、8~18%の金利で返済しなければなりません。低いところでは1桁ですが、多くのプレーヤーは2桁台半ばの金利となるでしょう。かなり高い金利の場合、負債だけを返済したとしても7%しか残らないのです。債務返済条件の交渉がうまくいった場合や、ポートフォリオレベルでのEBITDAが高水準となった場合には、17%程は残るでしょう。そして、これから先のことについては、どのように事業を運営していくかにかかっています。

そこで一つ気になるのは、Amazonのペイパークリックコスト(PPC)が上がっている、ということです。直近の四半期決算報告では、Amazonの広告収入を2020年と2021年の第1四半期で比較すると、60%ほど増加しました。つまり、この業界に参入する人が増えれば、より多くの資金が投入され、ブランドごとの広告費も上がっていくのです。買収されたブランドの平均TACoS(Total Advertising Cost of Sale)や総広告費は、平均して8~10%程だと思います。今後、Amazonで成功していくためには、PPCが全体の12~15%程度になることも、十分に考えられます。つまり、今後この業界で事業をするには、5%程度のコスト負担が発生することになります。EBITDAが18~25%のビジネスを買収したにもかかわらず、負債返済後7~17%しか残っていない状況です。仮に他の条件を全て同じにしたとしても、広告費だけで、5%のコスト増があります。そうすると、ビジネス運営に必要なコストは、さらに2〜12%に減ることになります。

あとは、実際に運営するための、コストを考えなければなりません。経費としては、2~5%の間で推移することがほとんどだと思います。実際に失敗する企業の多くは、経営陣に多くのコストをかけているため、トップヘビーになっており、莫大な経費を抱えていますが、アグリゲーターが買収する企業のほとんどは、創業者数名であるため、コストも低めになっているでしょう。そのため、規模が大きくなるまではそれ以上になる企業もありますが、最低でも2~5%のコストとなるでしょう。少なくともビジネスが安定していると仮定すると、2~12%の資金が残り、この計算式から最後の経費を引くと、残るはマイナス3%程度か、高くても10%でしょう。これは、本当に重要な課題です。これらの多くの企業が失敗しないためには、少なくともポートフォリオを維持または拡大させる必要があるのです。実現できない企業は、フリーキャッシュフローを確保するための計算が成り立たないため、投資も取引の増加も成長もできず、全て水の泡になってしまいます。これが現実的な数値であり、私の最初の予測では、多くのアグリゲーターが破綻することになると思います。

2つ目の動向予測は、成功するのはオペレーターだということです。

長い時間をかければ、誰でも1つや2つのブランドを運営できるようになると思いますが、特にその業界で長年事業を展開してきたり、現場で事業立ち上げの成功をしてきたりした人材を抱えている企業にとって、チャンスとなるでしょう。なぜオペレーターが成功するのか理由を探るには、アグリゲーターの成長サイクルに欠かせない2つのポイントを理解することが重要だと思います。

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まず必要なのは、実際に資金を調達することです。これまで成功してきた企業は、誰もが実現してきました。今回も70億ドルを調達しましたが、これらのプレーヤーの多くは、負債と株式を組み合わせて9桁または数桁の資金を調達しています。つまり、資本を調達できなければ、事業を買収し、事業に必要な資金を蓄えることができないということです。

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次に必要なのは、最初に述べたように、実際に事業を運営する能力です。ビジネスを軌道に乗せるためには、実際に成長させる必要があります。それから、当然ながらディールフロー、理想はユニークなディールフローを獲得しなければなりません。買収したいビジネスがなく、売却を希望している企業にアプローチできなければ、このモデルは破綻してしまいます。つまり、少なくとも事業の維持、理想では成長をさせるためには、資金調達をして事業を運営し、さらにディールフローを獲得していく必要があるのです。なぜ事業運営が非常に重要なのかというと、これら2つのポイントの中心だからです。ビジネスを上手に運営し成長させれば、スケールアップにつながるでしょう。その結果、売却したセラーは、追加収入を得ることが出来、この取引にさらに満足することになります。

ここで終わりではありません。良い噂が広がることで新たな取引の成立にもつながり、アグリゲーターとして業界で名を馳せることになるため、正のループが生まれます。更に、このビジネスの運用が新規案件の受注にもつながりますし、既存と新規の投資家に負債投資減額の依頼もしても良いでしょう。もしくは、事業価値を上げて株式投資を受けることもできるのです。ゴールドマン・サックス出身の経営陣や、大手金融マンは、資金調達では役に立ちますが、このモデルで成功するのは、オペレーターです。

第3の動向予測は、2022年の第1四半期末までに、大手アグリゲーターの1社が、SPAC(特別買収目的会社)もしくは通常の公募によって上場するだろう、というものです。

おそらくThrasio(セラシオ)が有力候補に挙がっていると思いますが、セラシオの上場から6~12ヶ月後にはPerch(パーチ)も株式公開をすることになるかもしれません。時期を見てイグジットをすることになりますが、数十億ドル規模に成長しているときに、投資家に資本を還元する能力が本当にあるかどうかは、イグジットにかかっています。このような大手企業が好きかどうか、またはアグリゲーションモデル自体が好きかどうかに関わらず、これらの企業が上場を成功させることで、Amazonマーケットプレイスに投資している者としても恩恵を受けることになります。

その理由は、もしこれらの企業が株式公開に成功すれば、業界にとって正のループが生まれることになるからです。上場の際は、市場規模を評価する意味で、おそらく15~30倍を目標としていると思います。このモデルが有効とされ、この業界に追加資金が投入されることで、Amazonブランドを購入する資金も増えることになります。そして、我々Amazonセラーが現在、そして将来的に得られる倍率も上がる可能性があるのです。

株式を公開するだけではなく、株価の維持、そして高騰させる必要はあります。上場することと、実際に上場を成功させることは別物ですから、もし上場して30%も暴落したら、それは業界全体に悪影響を与えることになります。逆に、株式公開を成功させることができれば、株価の安定と高騰につながります。

つまり、平均2~5社のブランドを買収し、上場させれば15~30倍で売却できるというモデルが有効となり、よってセラー、負債や株式に投資する人々、公開市場、そして実際のアグリゲーター自身に至るまで、この業界に関わるすべてのステークホルダーにとって良いこととなるでしょう。この3つ目の動向予測は、成功への道筋を示すものです。

4つ目の動向予測は、買収した事業の取引規模とEBITDA利益率の下限が上昇するということです。

もし数億ドルの資金を調達しているアグリゲーターであれば、80万ドルや120万ドル程度の事業を買収し、時間をかけて規模を拡大・成長させることは難しいかもしれません。5億1,000万ドル規模のビジネスを査定してデューデリジェンスを行い、統合させるコストは、1、2億ドル規模のビジネスと実質的には同じです。ですから、売却側がイグジットを成功させ、複数の適格な買収先を獲得するためには、200万ドル以上の事業を行っていることが最低条件になると思います。そして、大きければ大きいほど良いのです。500万、1,000万、2,000万ドルといったAmazonビジネスが成熟するにつれ、これらの大規模なアグリゲーターにとって、注目の的となるでしょう。最初の予測で説明した計算に戻りますが、EBITDAの範囲が18~25%になっているのは、コストが上昇していること、倍率が上昇していること、債務返済額を抱えていること、優秀な人材を抱えていること、そしてその人たちの多くが米国にいることから、コストが高くなっているのだと思います。買収される事業の収益性は、最低限の基準を満たしている必要があると思います。例えば、買収時の純利益が20%未満であれば、Amazonの事業を売却するのは非常に難しいと思います。また、後続12年の純利益が20%未満といったように、利益率の低いビジネスを運営していると、負債の処理、成長コスト等を加味しても十分ではないのです。そのため、取引の規模はますます大きくなり、利益率が高く、EBITDAの高いビジネスへの欲求が、重要な基準になると思います。

最後の動向予測は、80社以上のアグリゲーターが存在し、70億ドル以上の資金が投入されているこの業界の競争力です。

多くのアグリゲーターが成功するためには、ニッチなアグリゲーション戦略やアプローチが必要になると思います。また、すべてを成功させ、さらに投資家を惹きつけるためには、市場以外のディールフローにも目を向けなければなりません。ですから、ヘルス&ビューティーや食料品に特化したアグリゲーターや、Proctor and Gambleのような魅力的なモデルが誕生する可能性は高いと思います。例えば、母親やおもちゃ、子供など、特定の顧客層に焦点を当てることも良いかもしれません。そうすれば、ユーザーベースのクラスターができ、ブランド全体の規模を拡大する際に利用することができるからです。さらに、もし80社以上のアグリゲーターが、似通ったディールフローを狙っていて、しかも全員がAmazonセラーであるとしたら、独自性を失い、資金調達が困難になるでしょう。そのため、shopifyのビジネスや、買収ブランドの成長に役立つソフトウェア企業に目を向けるようになるかと思います。このようなユニークでニッチな投資戦略は、特にスタートアップのアグリゲーターが成功するためには不可欠なのです。

さて、ここまで5つの予測をご紹介しましたが、最後にもう1つおまけで予想をしておきましょう。それは、アグリゲーターがアグリゲートされるということです。既にお伝えはしましたが、今後数年以内にアグリゲーターの20~25%程度が破綻すると考えています。資金調達ができなくなったり、買収ブランドの経営難からキャッシュフローがなくなり、ごみ同然に売却されたりすることもあるでしょう。そんな中で、本当に成功しているセラーは、実質的に資金を調達し、取引を獲得、株式を公開することができているのです。そのため、大手企業にとっては、上場している企業やこれから上場しようとしている企業が、これらのアグリゲーターを合併・買収することは非常に魅力的な話となるはずです。そして、成功しているアグリゲーターの中には、運営はできているものの、大手企業ほどの規模やレベルには達していない中間層があると思います。今後12ヶ月の間に、中小規模のアグリゲーターが成長中のスタートアップアグリゲーターと合併したり、あるいは自社が買収されたりする可能性は高いと思います。あるいは、他社が参入して9桁のブランドポートフォリオ全体を自社の事業に取り込み、継続的に規模を拡大して成長できるようするのです。

というわけで、私の意見に賛否両論あるとは思いますが、楽しんでいただけましたら幸いです。